ラジオ放送

NHK放送所感

書籍 日本放送協會編「三太物語」より(昭和25年8月)
 この「三太物語」は、NHKが1950年4月以来、毎週日曜日の「子供の時間」に、30分 間にわたって放送した作品であります。 いまもなお、この「三太物語」はつづいております。したがってこのシーリズは、単に長くつ づいているという意味からも、「子供の時間」としては、戦後最長の記録であります。
 従来はとかく世界名作などにたより勝ちだった「子供の時間」の企画を、ここでもつと直接に 現在の子供たちの要求にこたえたいと、われわれはいろいろ模索いたしました。本屋の店さきでマンガ本を立読みする子供たちを基本的な対象として、明るい娯楽放送をもとめたのであります。
 こうした意図が、曲りくねっている過程の中で、われわれは特異な作風を示しておられる青木 茂氏と、筒井敬介氏を見出したわけであります。どちらも児童文学作家として多くの作品をかいておられますが、青木氏は別の一面、科学者であり園芸家であるということと、筒井氏が長い児童演劇生活を経て来られた方であるという一面とが、この「三太物語」に新しい作風と雰囲気を つくり得たのではないかと思われます。
 このシリーズについて、かずかずの好評を裏ずける投書がはいっております。 その中で、子供たちの投書はさておき、意外に父兄の方々の投書が多いのは、珍らしい現象で あります。
 一言でいえば、この作品が子供の世界だけを切りとって、のどかに美しくだけ描こうとした、 古い考え方からぬけ出ているからかと思います。子供の生活には、いつもけわしい大人の社会生活が影を投げています。しかもその中で、強く美しく自分を主張していくのが本来の子供の姿といえましょう。
いろいろなむずかしい条件をうけながらも、このシリーズの中では「三太」を中心として、正しく生きぬこうとする人たちの姿が、はつらつと描かれています。
 しかも、ユーモラスに-
 われわれは、ここにこの企画が支持されつつある理由と、また、支持して下さる方々の表だって語られない心の方向を感じとっております。
 この本におさめられたものは、いうまでもなく放送脚本であります。しかし、放送脚本につかわれている特別な用語は、すべて読んでわかる言葉になおしました。
 それは、これらが物語、あるいは小説としても、一応よむことができるようにしたわけであります。
 また、子供たちのために書かれた脚本であるために、ごく高い意味の放送劇的表現技術をさけてありますが、それがかえって、いわゆるわかりやすい物語性をそなえているともいえます。
 ところで又、この脚本集が、戦後さかんな学校劇の方向に、一つの暗示をあたえることができれば幸いだと思います。どこの学校でも、学校劇の脚本の選定にはなやんでおります。学校劇には、さまざまな条件があってのこととは思いますが、たくさんの子供たちがこういう劇をよろこんできいているというところに、学校劇の世界をもっとひろめる何かがふくまれているのではな いでしょうか。
 われわれはここに、児童娯楽放送脚本を、戦後はじめて本にするという仕事によって、父兄の方々、先生の方々の御批判と御助言をぜひいただきたいと思います。

タイトル 三太物語
原作 青木 茂
脚本 西澤 實⇒筒井 敬介
企画 田中 達夫
演出 善田 英夫
演出
助手
丹羽 康明
技術 沢口 博
効果 岩淵 東洋男
作曲
指導
田村 しげる
音楽 ソネット・アンサンブル
演奏 シャンブル・ノネット
制作 NHK
放送
時間
第1回
1950年1月29日 日曜日午後5:15~5:45
「三太うなぎ騒動」
1950年2月26日 日曜日午後5:15~5:45
「三太と子ねこ」
1950年4月30日~51年10月28日 
         毎週日曜日の午後5:15~5:45
「三太の野球」
第2回
三太三重まる物語 毎週日曜日の午後5:30~5:45
1952年11月 2日「三太の日曜日」
    11月 9日「三太のお菓子製造
    11月16日「三太と半鐘どろぼう」
   11月23日「三太と道志川の幽霊」
   11月30日「三太と郵便切手」
~53年10月25日 
第3回
三太の大手柄
1957年1月7日午後 6:00~6:25(「おやおやなあに」含む)
   1月21日「キツネ狩りの巻」
   7月22日「いよいよ夏休みの巻」
   7月29日「いよいよキャンプの巻」
   8月7日 「いよいよ不思議の巻」
~ 8月15日

第1回
第2回
出演者
三太     :金田 明 、島村紘宇
定      :小林 和男
留      :深尾 光伸
花子     :平山 テル
花荻先生   :永井 百合子
三太の父   :槇村 浩吉
三太の母   :柳 文代、綱島 初子
仙爺     :木崎 豊
強羅さん   :石黒 達也、富田 仲次郎
音さん    :恩田 清二郎
音さんの女房 :於島 鈴子、北原 文枝
村長さん   :大森 義夫
武さん    :名古屋 章
丑さん    :下条 正巳
医者さま   :長浜 藤夫
青年     :久松 保夫
その他    :テアトル・ピッコロ
第3回
出演者
三太     :吉田治夫
花子     :三輪勝恵
定      :久松亨
留      :山寺章男
花荻先生   :吉行和子、久邇京子
音さん    :恩田清二郎
強羅さん   :佐藤英雄
村長さん   :大森義夫
概要 神奈川県津久井町の道志川のほとりに住む自然児・三太とその一家、近所の人たち、
先生が繰り広げる底抜けに明るい物語。「おらぁ、三太だ」と元気いっぱいの声が
とびだす。(NHK放送ライブラリーより)

NHKアーカイブス 子供の時間「三太物語」

NHKアーカイブス 子供の時間「三太物語」より
「放送打合せ風景」(右から 善田英夫(演出)、花荻先生(永井百合子)、青木茂(原作)、                金田明(三太)、筒井啓介(脚色)、柳文代(母) 三太物語 第2部より
 
  「三太の人命救助」原稿   
旅に暮れつつ   青木 茂  (昭和26年発刊「日本放送協会編 三太物語 第3部」より)
 道志川上流4里をさかのぼると、神奈川県の最奥地、裏丹沢、青根村という山村に達する。ここに山梨県と 境を接する道志川の両国橋を渡ると、いわゆる上道志、山梨道志村になる。この上道志と、下道志因縁にも山村らしい面白い話が残っている。
  この辺の村に、美しい、いわゆる「垢」のない話のヒントを得る為に、数度にわたって訪れた。 自分の書いている、野生の動物と人間界の交渉が、村の人々には、昨日にも起き、又明日にもあらん事のようにしたしまれているのを知った。娯楽にとぼしき人々に又となく喜ばれているのが嫡しい。中野町より青根のバス道路は、途中、青野原村より先は、脚下霧をよぶ道志渓谷の中腹にそいて縫う絶景。 四季の観光の地として、秘宝ともいいえよう。東京よりスケジウルよろしければ、4時間にして、鹿、イノシシの住う青根に達する。この村の途中には早大合唱団合宿所、めおと園というのがあるのも奇である。青根村には旅宿もある。新宿、八王子、橋本、中野町、青根ー若しくは、新宿、興瀬、三ヶ木、青根ー旦し日帰りはすこし無理。(バスの都合で)(三ケ本より徒歩でも4時間)
 三月梅の咲き匂う村々を訪ねた。津久井郡の学生諸氏、卒業まぎわで、演劇コンクールなぞが方々で開かれていた。三太の時々やる演劇を思って微笑した。全国、年令階数の如何なく、「善意ズム」ともいう可き「三太ズム」が、かく普及し得たるは、脚色筒井氏の力量、NHKの努力、よりすぐりの放送演劇人によるものと感謝にたえぬ。自分として及ぶ可き力には限度があろうか一回でも長く、これを続けたい為に、旅に暮れつつ、毎夜わかたぬ構想に苦心を重ねている。 新聞、雑誌、ラジオ、映画、演劇、レコード等々のよせらるる好意を感謝する。